シカゴ発! 8,700㎡の垂直型農業施設で新たに挑むローカルフードシステム – The Plant

John Edel The Plant

現在、世界には約1億人もの人々が食糧不足で苦しんでいる。これらの状況は改善するばかりか、むしろ深刻化している。何故ならば、2050年には世界の総人口が90億人に達すると見られており、この人口増加に伴い、食糧不足人口も増加すると予測されている。また、世界的に供給しなければならない食糧が増えれば、私達が日常的に購入している食糧価格の高騰や入手不足といった状況を招き、これらは発展途上国の問題だけではなく、先進国にとっても極めて重大な危機をもたらす可能性がある。

しかし、いざ野菜等の栽培量を増やすとなると、世界における土地は限られているため、従来とは異なる栽培方法を考える必要がある(ちなみに現在、世界の穀物メジャーや食糧生産量を確保しようとしている国々が土地の買収量を増やしている「ランドラッシュ」の動きも同時並行している)。 そこで、今この食糧危機の問題への解決策として注目を集めている方向性が、「水平」の土地がダメなら「垂直」の可能性を探る、といったもの。

以前こちらの記事でもご紹介した通り、垂直型農業の提唱者や建築家等の活動によって、この垂直型における可能性が検討されているが、やはり何といっても問題となるのが、持続可能な事業性・収益性を確保するという点。現在、構想されている総合垂直農業施設は超高層ビルを前提としているものも多く、それらは建設費だけでも数十億円、数百億円といった規模となる。仮に野菜栽培や家賃収入等の収益源を得たとしても、初期投資額の回収期間が長期に渡ってしまうため、企業レベルでは今ひとつ実現しづらい面が多々あった。

そんな中、近年までまったく利用されていなかった約8,700㎡の精肉工場施設に新たな命を吹き込み、都会におけるサステナブルな食糧供給を実現させるべく、シカゴにThe Plantという垂直型の室内農業+養魚場によるエコシステムの構築を進めているNPOをご紹介したい。

Plant ChicagoというこのNPOは教育やR&D(リサーチ&デベロップメント)を通じて、食糧生産、起業家精神、土地の再利用の推進を目指している。そして、このNPOが生み出したThe Plantでは、施設の三分の一を利用して水耕栽培システムによる垂直型農業を実現し、残りの三分の二をサステナブルなフードビジネスのインキュベーションを目的としている。事業主に対して低賃料、低エネルギーコストのメリットを提供する他、共有キッチン等も併設する。

John Edel The Plant

John Edel The Plant

自立したエコシステム構築に情熱を注ぐこの施設では、なんといってもその循環性の高さが特徴的である。

既に水耕栽培システムにより育てられているレタスが約280㎡分、そして1,400匹のティラピア(魚の名前。味は鯛に似ているとの事)が導入されているThe Plantでは、この水耕栽培場と養魚場が34,000リットルもの水循環システムによって結合されている。仕組みとしては、まず、窒素に基づいた栄養素を多く含んだティラピア養殖タンクの水が水耕栽培用として転用され、これらがレタス栽培における肥料として活用される。そして、これらの水はレタスに吸収される段階で濾過され、この濾過された水が養魚場へと戻される。

もちろんこれだけではない。

フードビジネスのインキュベーションセンターとしての機能をも目論むこの施設では、既にビール醸造所、パン屋、発酵茶醸造所、キノコ畑を営む事業主達がパートナーシップを組んでいるのだが、ここにも循環性が実現されている。例えば、ビール醸造所等で利用済の穀類は先ほどのティラピアの餌として与えられ、ティラピアの固形廃棄物はキノコの栽培に利用される、といった具合に、施設内でサステナブルな連携が保たれているのである。不要な無駄もなく、互いに事業としても繁栄できる。(ちなみにこれらの野菜やティラピア等は地元のレストランや市場等で販売される。)

更に、エネルギーの活用も同じく循環性が高い。
正味ゼロエネルギーを目指すこのThe Plantでは、施設で利用する全ての熱及び電力を生み出すために化石燃料を利用するのではなく、ごみ廃棄場や近隣の食品生産者から集められた廃棄食糧を毎年6,500トン(1日約18トン!)分、エネルギー生産へと転用していくとの事。

現在もエネルギー効率の追求は進み、The Plant創業者のJohn Edelさんとイリノイ工科大学の学生達は、野菜や魚から生まれる廃棄物を肥料に利用したり、冷暖房や280キロワットの電子システムに利用できるバイオガスを生みだしたりするための消化装置を開発している。

こうした循環型のエコシステムの構築は、食糧供給やエネルギー効率性だけではなく、雇用面でもポジティブな影響力がある。The Plantの計画では、シカゴにおけるBack of the Yardsという経済的に困窮している人々の雇用を125人生む事を可能としており、多方面において地元還元を実現するこのプロジェクトの意義は実に大きいのではないだろうか。是非とも今後も発展を続けて欲しいプロジェクトである。

John Edel The Plant
(The Plant内のビール醸造所の事業主達)

The Plant ウェブサイト
http://www.plantchicago.com/

 

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