世界人口が急速に増える中、人類が直面する食料危機はそう遠くない未来として「既に見えている」問題であり、同時に不測の事態も多々起きる可能性も大いにある。2050年には世界人口の約80%が都市近辺に移住すると予測されており、またその人口も90億人に達するとされている。もしこれらの人々に十分な食糧供給をする場合、新たにブラジル+その20%分の土地が確保できなければ実現できない(現在の農業生産者の生産量が変わらないと仮定した場合)。これら人口増加に伴う食料危機への取り組み方には様々な可能性・方向性が秘められているはずであるが、急務な課題としては、絶対的に「食量」を生まない事には始まらない。
ここで忘れてはならない事は、「未来へのオーナーシップ」を保有する人々のメンタリティは、「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」という事。広く普及しているこのアラン・ケイの言葉であるが、食料危機という人類の生命に関わる重大問題に対してこそいかんなく発揮したい。では、いざ野菜等の栽培量を増やすとなると、世界における土地は限られているため、従来とは異なる栽培方法を考える必要がある。
そんな中、食料危機への打開策の一つとしてここ数年間注目が集まっている「室内の垂直型農業」。狙うは「水平」の土地ではなく、「垂直」の空間、という発想により、都市農業のあり方を模索する研究家や建築家等がタッグを組み、様々な可能性を探っている。
当然、食糧危機に対する課題は量を生産する事だけにとどまらず、その収穫頻度を高める事や天候に左右されない安定性等も求められてくる。先進国が現在当たり前に食している野菜や果物を栽培できる水準に至るまでに、人類は約1万年要しているという。しかし、その年月を経てもなお、他のIT産業に代表されるような技術革新はまだまだ未導入である状況が農業にはある(もちろん一部では最新技術を適用している)。個人的には、自然を無理矢理制そうとする人間のあり方に対して疑問な部分もありながらも、飢餓に苦しむ人々が社会に実存する限り、そうも言っていられない。
では、実際に室内の垂直型農業のメリットとは何なのか、以下にいくつかご紹介したい。
+自然災害(台風、洪水等)から農作物を守る事ができるため、生産ロスが無い
+全ての農作物はオーガニック栽培によるもの(農薬は使わない)
+365日稼働による生産性向上
+現在の農地を自然へ還元もしくは他の活用方法が可能
+カーボンフットプリントの軽減
+未使用のビル・土地等の有効利用(旧工業地域など)
+ 新たな雇用創出
+農作物の価格安定化
これらはあくまでも一部に過ぎないが、その可能性は私達の予想範囲外の効果をももたらすかもしれない。
このようなメリットがある中で、新しい取り組みをする際には避けて通れない様々な課題が当然ながら生じる。特に現在の最もおおきな問題は事業の持続可能性であろう。垂直型農業の規模は様々だが、抜本的な改革を起こそうとしている研究家や建築家は超高層ビルを想定した議論を進めている。30階以上にもなるこれらの農業ビルは初期投資額だけでも何十億、何百億円という巨額な投資が必要であるにも関わらず、野菜等の販売だけでは初期投資額の回収が長期化してしまう。
そこで、例えばビルの一部を住居空間として貸し出し、家賃収入を得る事や今までにない収入源を創出する事は必要不可欠である。その際、この農業における新しいビジネスモデル開発と同時に分野横断的なパートナーシップを組む必要があり、異なる立場間における新たな交点を見出す作業が求められる。企業単独の利益追求の枠を越え、後世の命を守る事に注力した広域な社会意義を追求する志が欠かせない。