こちらは別記事でご紹介したSean Woolseyの映像を制作したProcess Creativeによる別作品。せっかくなので、ご紹介したい。
Stephen Kennは、ローカルに素材調達する事と細部まで配慮を行き届かせる事を大切にしながら、ロサンゼルスでThe Inheritance Collectionと呼ばれる家具コレクションを作っている。Inheritance、つまり継承を意味するこの言葉通り、特徴的なのは、ソファ生地として昔の軍服や素材を再利用している事だ。それはかつて、国のために力の限りを尽くした勇敢な戦士達への敬意の表れである。
Stephen Kennは家具作りの生産過程を知るうちに、その複雑さに圧倒されたという。そこで、構造をよりシンプルにし、一つ一つのパーツがどのように機能しているのか、という事を透明にできないかと考えた。また、それらを支える素材も、より物語を伝えられる素材を徹底的に選び抜きたいと考えた。プロジェクトを進めていく中でStephenは幸運にも、ロサンゼルスの倉庫に眠る大量の軍服や戦争備品に出会う。第二次世界大戦に利用されたこれらの軍服の物量を見ると、改めて時代の大きな変革を感じる。
Stephen Kennは、The Inheritance Collectionを通じて、人がこれらのソファに座る度に、自らを犠牲にし、今を生きる人達のために自由を勝ち取ってくれた人々がいた事に思いを馳せて欲しいと考えている。
「これは彼らの存在を記憶するための家具でもあるのです。僕が僕でいられるのは、彼らが彼らでいてくれたからなのです」と話す。また、「家具コレクションを作る意味は、単に家具ブランドとして認知して欲しいからではなく、より豊かなコミュニケーションが生まれる環境を創造するためです」とも話している。
そのため、Stephenは、モノづくりの生産プロセスをもう一度紐解き、それぞれのプロセスにどのような人が関わっているのかを伝える事にも情熱を注ぐ。家具制作に必要なパーツや素材を一緒に作り上げてくれる人達との関係構築もStephenが大切にしているモノづくりの価値だという。ロサンゼルスはあまりモノづくりのイメージは無いかもしれないが、「現地でモノづくりができる事に心踊る人々がロサンゼルスにはいる」事もまたとても魅力なのだそう。
いつの時代にも、後世に伝えるべきメッセージや生き様というものが必ずある。そしてその伝え手は、モノやコトへと形を多様に変えながら、伝える努力をしている。一方で、使い手としてはそのメッセージを汲み取る器量がなければ、永遠にコミュニケーションは取れない。ここにミスマッチが起きてしまうから、「モノではなく精神的豊かさが大事だ」という話が生まれてしまう。そこできちんとコミュニケーションがとれていれば、つまり、作り手の想いをその作品を通じて確かに感じ取れる感度が備わっていれば、そんな発言は死んでもできないはずである。作り手を阻害してはモノを通じた豊かさは享受できなくて当然である。
確かに20世紀は大量生産によるモノが数多く存在した。一方で必ずしも機械的ではない方法で生まれたモノもまた数多く存在した。いずれにしても、21世紀に入って実際に作り手として関わっている人達は減っている。その原因をITによる発展等というだけでなく、「当時の人達の方が伝えたいコトが沢山あったのではないか」と考えることも必要ではないか。利便性や効率だけで価値をはかれば、技術を獲得し、研鑽し、悩み続けながらも作品を生み出し続ける生き方は理解できないかもしれないが、それをしてまで伝えたいコトや生きたながら体現したいコトがあったのだ。
今、人がマネできない労力をかけてでも伝えていかなければならない価値を一人一人が持つ必要があると、強く思う。
(Film via Process Creative)
Stephen Kenn Website
http://www.stephenkenn.com/site/