都市と会話をしよう – Thinking Cities (ドキュメンタリー)

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社会の一人一人が「未来へのオーナーシップ」を持ち、本当の主体性を抱きながら生きていくためには、自分の未来ではなく、「私達」の未来についても意識的になる必要がある。それは、国籍や性別を越えた「人」という共通項への意識である。
そんな世界住民は急増する人口に伴い、「都市のあり方」を再考しなければいけないフェーズに来ている。

2050年までに人口は90億人に達する、という予測は多くの人が耳にしている事だと思うが、何十年も先の話の事に対して強い危機感を感じられる事は多くないかもしれない。しかし、2050年への道のりは既に始まっており、だからこそ少しずつ課題解決への糸口を考えるきっかけを設ける必要がある。そんな想いから、今回は”Thinking Cities”という、都市化する世界における課題とそこに潜む新たな機会を探るドキュメンタリーのご紹介。

冒頭でニューメキシコのサンタフェ研究所の自然科学者として、「都市に対する科学の必要性」を強く感じているGeoffrey Westは次のように話す、「もし向こう30〜40年間の人口移動を平均すると、毎週100万人が都市に移り住む計算になります。」近年でこそ、資源の限定性を元に持続可能な社会に進もうとする動きは世界各地で行わている一方、まだまだ「持続可能」というレベルとは程遠い。

そんな中、都市生活を送る住民達の責任は逓増している。統計的に見ると、やはり都市人口が増えれば、犯罪・環境汚染・健康被害・労働賃金・特許数等あらゆる数値が増える。これは確率論から言っても当然と言えば当然かもしれない。しかし、大切な事は、都市がこれらの問題やそれらを引き起こす要素を生む一方で、「都市には問題解決の潜在的担い手である人々を吸引する力がある」と先述のGeoffrey Westは話す。その人々が起こした化学反応から発せられる様々なアイディアやエネルギーこそが都市のエンジンである。

「問題が生まれる所に、解決策もある」、という真理がここにある。

有能な経営者が経営不振の会社を立て直すための糸口として常に「現場」に焦点を当てるように、解決策を出すため魔法等存在しない。あるのは、問題を直視して、目を離さない事。

また、同じく冒頭でElain Weidmanによるこんな興味深い発言があった。「2006年にニコラス・スターンは、”都市においては、行動するコストの方が行動しないコストよりも安い”と話しています。」
これには様々な議論が展開されうる一言ではあるが、 やはり変わりゆく時代において無視できない事は、ここにおける「行動」というものはある一定の前提条件に沿った場合であり、この前提条件が変わってしまえば全てが覆ってしまう、という事ではないだろうか。あらゆる大量生産の事情がこれととてもよく似ている。

Thinking Citiesは、都市化が進む世界における解決策をITネットワークに見出している。
近年のIT技術により、あらゆるデータがリアルタイムで計測でき、それによって問題点や非効率な点を即時に発見できる仕組みになりつつある。それはまるで都市が私達一人一人に語りかけてくれるような形である。

その一つの取り組みとして、MITのSenseable City LabのディレクターであるCarlo Rattiはゴミを追跡するプロジェクトを行なっている。これは、シアトルにある様々な物にマイクロチップを埋込み、それらが捨てられた際にどれがどのようにして、またどこまで運ばれているのかを可視化するプロジェクトである。「興味深い事は、これらのデータは今まで収集されてこなかった事です。」

このような取り組みによって、例えば物流面においては無駄排除によるコスト削減が期待できる。これはほんの一例に過ぎず、今の情報ネットワークを武器にした都市や街という存在はかつてない潜在力を秘めている存在となった。
本ドキュメンタリーにおいても、「国はCO2削減といった上位概念的な取り決めをする一方で、実際的な次元においてこれらの目標を実現させるのは街なのです」と指摘している。実際に、この巨大な潜在力や今後「街」という存在が発揮しうる力を理解できている市長等は、未来に対して実に意欲的に取り組んでいるようだ。

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本ドキュメンタリーが扱っているようなIT技術による新たな街のあり方、という視点は当然ながら大切である一方、忘れてはならない事はテクノロジー的な発展目覚しい今日、人類の文化的側面もどのようにして発展させていくか、という視点である。

つまり、都市における様々なインフラ面の改善はもちろんの事だが、私達一人一人の「都市での住まい方」そして「ライフスタイルのあり方」も同時に見直さなければならない。都市や街の作り手は開発デベロッパーや建築家だけではなく、その都市という公器を使いこなす私達一人一人である。急増する人口に伴い都市のあり方が問われている今、ごく一部の開発者に全てを委ねるのではなく、むしろ市民発の都市提案があってしかるべきだし、そのように能動的に街と関わっていく事がより多くの解決策を生み出せるかもしれない。

「住まう事」や「生活する事」という日々の営みは、一人一人の内側から編み出すものであり、ここに主体性を持つ事が豊かさへの糸口でもある。
技術的な発展は往々にしてその計測的な性格から、効率性との親和性が高い。しかし、文化的発展はむしろ非効率性や矛盾に潜む事が多い。これらのどちらかを選ぶのではなく、両立させるための交点を探すべく、人間の生き方にはより「人としての全体感」が求められる時代ではないだろうか。

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