いつの時代も、それが経済活動であれ、文化活動であれ、その全ての出発点及び帰着点は「人」である。「人」から目を離さない事が私達の歴史を育み、未来を創る上で欠かせない。
今日という時代はIT技術の発展によって多くの人々がインディペンデントに生きやすい環境をもたらしてくれた。音楽家はその音階の調べを世界の人々にオンライン上で提供し、ジャーナリストは世界のどこにても取材記事・写真の提供や発信ができる。
しかし、一方で「食分野」など、オンライン上では決して伝えられない分野においてはインディペンデントな活動を貫きづらい環境が続く。物理的に食を提供する場を用意する事や限られた地域において十分な集客をし続ける事は決して容易な事ではない。
そんな中、イーストロンドンに位置するThe Loft Projectは、次世代の有能なシェフ達がその食世界を披露できる場の提供を行なっている。シェフであるNuno MendesとパートナーのClarise Fariaが運営するこの場は、当初臨時の食事会場や個人の実験キッチンとして設立されたものだったが、今では様々な料理人達が手腕を発揮するために用いられる食のプラットフォームとして機能している。毎週の木曜・金曜・土曜に予約を受付け、それ以外の平日は一回限りのイベントや料理教室、プライベートパーティー用に開放している。
料理人としては例え独立したくても、店を始める際に必要な初期投資費用の準備に伴う負荷が重くのしかかる上に、料理に対する顧客反応や集客の可能性が未知数であったりと初期投資額に対してリスク部分が大きい。少なくとも料理の反応を得るために、自宅に来客者を招く事もできるかもしれないが、全く面識の無い人達を招く事は中々難しいかもしれない。そんな環境の中、こういった「実験場」としてのキッチンは、来客者にとっても実験的で新しい食に触れる機会となり、料理を提供する側としてもレストランさながらの環境でオペレーションを始め、集客、料理の反応等を得る事ができる。
実はこのような場はロンドンに複数箇所存在するが(料理人のレベル等異なる部分も多数あるが)、これらは食事一回あたりの金額が£35(約¥4,000前後)のものが多い中、The Loft Projectは一回あたり£100(約¥12,000前後)とハイエンド側に位置する。
しかし、このポジショニングはブランド戦略性も含まれているかもしれないが、このモデルの継続性を維持する側面も大きい。というのも、その日のためだけに食材を調達するという事は、レストランのような大量仕入れによるコスト競争力が発揮しづらく、特に¥4,000前後で食事を提供している料理人の場合ほとんどが食材費に消えてしまう。
従って、これらが料理人にとっては自転車操業状態を招きやすい環境である事を考えると、The Loft Projectのような付加価値を創出する方向へと舵を切る事は自然な発想である。いずれにしても、次世代を担う人材の才能を醸成し、社会との接合点として機能させるこのような環境構築が何よりも意味のある事ではないだろうか。
「社会の個々人がそれぞれ大切な事を生き方の中心に置くためにはどのような環境構築が必要だろうか。」これは、Future Ownership Japanにとってあらゆる関心領域が帰着する問いである。
生き方と働き方に一貫性があり、自身のアイディア、情熱、大切な価値観を社会で実現する事がより奨励されるような社会、互いに手を取り合って助け合える社会環境を如何に構築すれば良いか。
自分や子供には買わないような商品やサービスを「仕事だから」という大義名分の元に売る行為、働く事への喜びを感じない欲求不満を休日にのみどうにかして埋めようとする行為。これらは全て、本来自分自身が持つ、生きる事への価値観と働き方に大きな隔たりがあるからではないだろうか。逆にそれが如何なる分野であれ、今の仕事の繁栄や成果が直接喜びへと直結する場合、生きる事と働く事の不一致感はそう大きくはないはずである。
この不一致感を咎めているのではなく、そのような道を選択している、あるいは、せざるを得ない自分自身以外にも理由がある事に問題意識がある。
もちろん、「常に問題の原因は自分にある」という認識を持つ事が欠かせない姿勢であることを前提としながらも、社会とは一人で生きる環境ではない以上、その社会構成員である個々人が支え合う土壌を育成する事が大切ではないだろうか。
自分は自分を支えてくれている誰かによって「生かされている」。この事をもっと意識の最先端に置き、より広域に渡ってその意識を根付かせ、互いの未来に対して関心と意志を持つ環境構築を目指したい。
今回ご紹介した、The Loft Projectも料理人達にとって一つのきっかけの場を与えてくれる重要なプラットフォームである。
創造性の芽を育む環境を構築する事が、今日が歴史になり、明日が今日になる所以である。
The Loft Project
http://www.theloftproject.co.uk/about/
Tomoyuki
2011/11/04
Congratulation on your website opening. I completely agree with your opinion. I am looking forward to meeting you.
FO Japan Editing Team
2011/11/04
Thank you for the comments and support !!
This is only the beginning. There are a lot of things coming up so stay tuned !!