ポートランドにはDIYスピリットが深く深く根付いており、個々人が持つインディペンデントな姿勢は並外れている。
今日はそんな街で、自身の小さなフレグランスブランドを発信しているOLO Portlandのご紹介。
香料の作り手であるHeather Sielaffさんは、ポートランドの個人や企業の要望に沿ったオーダーメードを手掛ける他、自身のブランド商品をオンラインショップ経由で販売している。
現在は10種類あるフレグランスだが、それらはやはり地元ポートランドを連想させる土や自然の香りを持っており、その名前も地元の自然や物語からインスパイアされたもの。
例えば、地元写真家・デザイナーが手掛けているスカーフシリーズに合わせたフレグランスでは、 人生における上質なものへの敬意を表しながらも、お金には困っているといったアーティストとして生きる事の二重性を表現している。その香りはまるで、最高級の服を身に纏いながら暗い森の中に潜み、アブサンを飲みながら、光が新たな地へと導く瞬間を待っているようだと、Heatherは言う。他にも、今まで自身が歩いてきた森の香りの象徴と位置づけるものや、ポートランドの春から着想を得ているものなど、一つ一つのフレグランスにその想いが表現されている。
(コラボしたスカーフシリーズ ↑)
香りと思い出は共存している存在である。ある香りに遭遇する事で、その香りとの初めての接点に記憶が引き戻され、一瞬あたりがタイムスリップした感覚を覚える。同時に、今度はその記憶、当時の感覚を思い出したいがためにある香りを求める、そんな一つの記憶装置としての役割もフレグランスは担っている。
この記憶装置としてフレグランスを考えると、そもそも「いつ得られた記憶なのだろうか」という事も気になる。というのも、世界における「良い香り」と「嫌な香り」というものは共通項も多々ある一方で大きく異なる側面もある。これらの印象の違いを考えると、香りには絶対的なものはない事が考えられる。ある香りに触れた時に呼び起こされる感覚や反応というものは、その生活地域におけるライフスタイルの記憶と深く繋がっているかもしれない。 香りには地域性という側面もこれらに影響を与えるであろう。
OLOのようにポートランドからインスパイアされた香りは同じポートランド在住の人々にとっては一つの共通通貨として働き、心地よい安らぎや感情をもたらしてくれるかもしれないが、異なる地域の人が同じフレグランスを香った際にどのような反応を示すだろのだろうか?例えば、日本ではお墓参りをする際に用いる香りが違う国では結婚式に利用されるかもしれない。すると当然、同じ香りに触れた時に想起される記憶が異なり、沸き上がる感情も異なる。
また、お墓参りにはこの香りを使おう、結婚式にはこの香りを使おうという文化的な意思決定の要因を探ると、以外にも近代的な文化ではなく、場合によっては数百年も前にその起源があるのかもしれない。時代と共に脈々と水面下で受け継がれてきた「感度の歴史」というものがそこにはあるのかもしれない。特に、香道という5感と寄り添い、一つの儀式を通じて感度を研ぎ澄ます営みが存在する日本では、恐らく他国と比べてまた香りに関する「感度の造詣」は異なるのではないか。私達日本人は古来より5感の運用に関しては繊細にそして丁寧に向き合ってきた歴史がある。これを大切にしていきたい。
香りの専門家ではないので残念ながら詳しくはわからないが、重要な事は、人間の人間たる所以の一つである5感という財産をどのように運用しながら生きていくのか、という姿勢ではないだろうか。
個人的にふとした瞬間に立ち返る言葉に、「知ることは感じる事の半分も重要ではない」というレイチェル・カーソンの言葉がある。「知る事」で「知らない事」を増やし、「感じる事」で初めて知った事を「生きる」。感じていなければ、生きているとは言えない側面をこの言葉は教えてくれている。もちろんそれ以外にも多くの哲学が込められているが、これの解釈についてはまた改めてどこかで書きたいと思う。
いずれにしても、OLOのフレグランスのようにとても地元地域から着想を得るという極めてパーソナルな感情を地元地域の人々へと届ける輪を大切にする姿勢があるからこそ、そこに加えられた自身の解釈や技術も受け手にとって心地良いものとして受け入れられるのではないだろうか。小さく丁寧な仕事を是非一度見てみて欲しい。
OLO Fragrance
http://www.olofragrance.com/