新興国ブラジル。経済的側面が多く語られる中、現地に根ざして活動している人達のパーソナルな視点に触れる機会はまだまだ少ないのではないだろうか。
そこで本日は、デジタルインタラクティブ性と建築との融合を夢見ながら、約10年間”Hybrid Habitation”、つまり”ハイブリッド型居住”のプロジェクト研究を行なっている31歳のブラジル出身建築家、Guto Requenaが今考えている事をご紹介したい。
San Carlosに位置し、ブラジル中から30名の研究家達が集う”Nomads”と呼ばれるグループで学位と博士号を取得したGuto Requena。このNomadsはデジタルカルチャーが如何に私達人間とデザインの関係性や都市開発のあり方に影響を与えるかが中心的な関心領域であり、デジタルカルチャーにおける動向、行動パターン、習性等を研究している。柔軟性や多機能性に強い関心のあるGuto Requenaは、Nomads卒魚後の2008年に自身の建築スタジオを設立し、住宅、商業ビルや家具の開発を行なってきた。
大学卒業後すぐに自身のスタジオ設立、と聞くと、やはり気になるのは初期のクライアントを如何に開拓していったのか、という事ではないだろうか。
どうやらそこは純粋に仲間に恵まれた結果だと本人は話す。始めは友人の住宅を手掛け、そこからは友人の紹介を経由して仕事が広がっていったそうだ。また、デザイン界における学術側の人脈があったため、国中をまわりレクチャーやワークショップも行なっていた。
そんな彼の夢は人々の行動特性を考慮した上でのインタラクティブなビルをブラジル市内に建設する事だそう。現段階の南アメリカ内ではこれらの構想に対してまだ関心度は決して高くないようだが、Guto Requenaはデジタル技術に人類の発展の糸口を見出している。 一方、彼はブラジルにおいて現在注目を浴び始めているデザインを中心としたテレビ番組にも関わっている。Gutoは「学生時代から僕はもっとデザインや建築に関する対話が交わされるべきだと感じていました。私達の国は文化的にはとても豊かだとは思うのですが、実際にまだまだデザインや建築に対する一般的な知識は薄く、まだブラジルにとっては新しいものなのです。個人的な意見として、私達が抱える大きな問題はOscar Niemeyerです。もちろん、彼は匠であり、皆が彼を愛していますが、この60年間おなじ事を繰り返しているだけであり、若い人達が新しく何かを創造するという機会があまりないのです。」ブラジルにおける現代建築の代表格でもあるNiemeyerであるが、ここにきてようやく世代交代の気配が漂い始めているようだ。
このような文化的差異というものはやはり現地における日々の生活を通じて最もその土地勘が養われるものであると感じているが、改めてサンパウロという街は現地の人から見てどのような街なのだろうか。
「サンパウロはとても複雑な街です。観光者では決して識別する事ができない様々な層が惣菜します。とても多様性があり、多文化的です。それは様々なパラドックスを生んでいます。例えば、とても興味深いアンダーグラウンドシーンが存在する一方で、巨大なポップシーンがあります。また、最も裕福で最も貧しい人々が共存しています。サンパウロにあるMorumbiと呼ばれる地域はとても裕福な地域であり、ビルや大富豪の家々が立ち並ぶのですが、その中心に最も大きな貧困エリアもあるのです。表からは巨大な家が見え、その裏庭は巨大な貧困地域、といった具合です。」
まさに新興国ならではの極端な現象が起きているサンパウロであるが、様々な文化的コントラストが彼の作品にも大きく影響しているようだ。例えば、家具やプロジェクトにおいて、自身の感情的な記憶や過去を想起させるような要素を重んじる姿勢そのものすらコントラストが生まれているという。「僕はある椅子を持っているのですが、その椅子には少し傷があります。僕にはとっては新しいかどうかは関係ないのですが、まわりの人々がそれを見た時に”これどうしたの?見た目が悪いからなんとかした方がいいよ”と言うのですが、僕にとってはそこにふくまれる歴史が大切なのです。僕は何もするつもりはないのですが、このような態度はブラジルではあまり一般的ではありません。現在、実に多くの資本がブラジルに流入してきているという意味では、私達はブラジルの歴史上とても特別な瞬間に立ち会っています。僕自身とても恵まれている事は、ここにはまだイノベーティブなアイディアを持ったデザイナーや建築家が多くないため、人と違う発想を持てる事によって多くの人が注目してくれます。ここには資金と何か新しい事に取り組みたいと思っている若者がたくさんいます。」
上記のような経済的な勢いにも後押された要因もあるかもしれないが、Guto Requenaの次回プロジェクトはサンパウロのGoogle支店のデザインだそうだ。そのアイディアの一つにデジタル廃棄物に注目しているそう。何故ならば、ブラジルはアメリカやヨーロッパ等のデジタル機器の廃棄物が極めて多く集められてしまっている場所であり、この課題解決に貢献しながらプロジェクトにも取り組もうとしている。
そもそも何かを創造する際に成果物よりも、そのプロセスに最も重きを置いているGunto Requenaは、現在改めて「ブラジルらしさとは何か?」を問いている。自国アイデンティティを模索する思考の矛先はもちろん今の日本にも多く見られると同時に世界中が改めて向き合っている課題である。そんな中で生まれた行動がブラジル特有の素材やその新たな活用方法の模索、そしてブラジルにとって大きな課題であるゴミ問題を解決するためのリサイクルや再利用への取り組みである。ブラジルにはまだ世界的な文脈における「新素材」と呼べるものはまだまだ少ないが、だからといって海外から全てを輸入するという発想はサステナブルではない。だからこそ、現地のゴミスクラップ上等をはじめ、関心領域から新たな可能性を見出そうとしている。
自分の内なる問題意識と社会的なアウトプットとを結びつける主体的な視点・思考こそがいつの時代にも必要とされる態度ではないだろうか。
著しい経済成長という外部環境に惑わされる事なく問題意識を見つめる冷静な視点と情熱との交点に大きな発展を期待したい。
ちなみに彼の好きなデザイナーはご存知Tokujin Yoshiokaとの事。
Guto Requena Website
http://www.gutorequena.com.br/site/